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vol.15 商売の道具になんかしてたまるか!

Spirits of Bigwood

vol.15商売の道具になんかしてたまるか!

出来た!出来た!出来上がった!アトムへの五目御飯。

・・・当初は出来上がっただけで満足でした。 十分すぎるほどの達成感がありました。 これまでの全ての苦労が走馬灯のように頭の中をかき回し、熱い物がこみ上げ涙があふれてきました。 ただひたすら、いまでは友となった『タンク』と一緒に泣いた。泣きじゃくった。 出来上がった五目御飯が宝物のように思えていました。

そして、今までささえてくれた黒田先生や宮崎みどり製薬の山口専務、農家の方々や友人・知人に早速報告しました。 皆、自分のことのように喜んでくれました。 しかし一方、私の心は寂しさやむなしさを覚え、嫌悪のような感情を抱いてしまうようになりました。 なぜなのか?当初は自分でも訳がわかりませんでした。 あまりにも長い時間と壮絶な自分との戦いに『極度の疲労と心労に神経が参ってしまったのか・・・』と感じてしまうほどでした。

自分自身にさえ理解しがたい『寂しさ』や『むなしさ』です。 大喜びしてくれる周りの人には、とうてい理解してもらえるはずもないと思い込み、誰にも打ちあけられずにいました。 次第に、周囲の共に喜び協力してくれた人に対してこの感情を打ち消して平静を装うことが苦しくなってきました。そして、ひたすら自分を責め、だんだんと卑屈になっていきました。

周りの人は皆同じように「たくさんの時間とお金を費やしたんだから、これからは頑張って販売しなきゃ・・・応援するよ!」と温かい言葉で励ましてくれました。 しかしこの言葉が逆に、私にとっては心がずたずたに破られてしまうような、宝物を壊されてしまうような言葉に聞こえていました。 寂しさやむなしさを通り越し、嫌悪感でがんじがらめにされてしまいました。

「何で俺の大切なアトムの五目御飯を売らなきゃいけないんだ!」
「この達成感や充実感や感動はどうしてくれる!」
「商売の道具なんかにしてたまるか!」
・・・自分の中で葛藤しました。

苦労して出来上がった自分と愛犬アトムの大切な宝物。 言葉では表現できない感動がいっぱい詰まった、この五目御飯を、そこらへんの商品と同じように商売の道具として捉えられることが嫌で嫌でたまりませんでした。 ひそかに『自分だけのアトムへの五目御飯にしてしまおうか』と封印することさえ考えました。 そして悩みに悩み、苦しみました。 今冷静になって考えると、このような自分がオトナ気なく恥ずかしいことのように思えます。 ただその時は、熱い想いの積み重ねの達成感や感動から出来上がった宝物に「商品として現実や社会と直面させ戦わせていくこと」が怖かったのかもしれません。

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